「作品について問題はない。時間についても委員会を開き検討した結果45分を許可する」この返事がアテネから届いた瞬間、「原爆の図」のアテネ上演が決まった。5月に渋谷ジァン・ジァンで上演し好評だったこの作品は45分。しかしアテネの時間枠は30分です。15分詰めるのは不可能なので延長が可能か打診していたのです。
私達がこの作品を上演したいと願ったのは、この作品には亜甲絵里香自身の華やかな舞い、10分以上1カ所に立ったままの表現、母親の写実的な演技と子役2人(金岡干愛・中力麻衣)への全く異なった振り付けなど、現在の亜甲絵里香の全てを見せることが出来ること。
それと丸木位里、俊ご夫妻の描かれた「原爆の図」という名画を、同じ平和を願う芸術家として、もっともっと世界に広めて行くべきだという思いもありました。
しかし、いろいろ不安はありました。なにしろ原爆という大きなテーマをソロで踊るのですから。子供2人が出ますが絡みはありません。ジァン・ジァンの空間だから通じたのではないか。
アテネに着き、実際に上演場所の「ドラ・ストラトウ劇場」へ行ってみると非常に環境はいい所で、アクロポリスに隣接したフィロパボスの丘の斜面にあります。
今回上演する場は、「ダンス会議」という性格のもので一般の人は入れません。それだけに目の肥えた人達ばかりが相手なので非常に気も使います。
この会議では、25カ国から集まった芸術家や学者達がビデオやスライドも使いながら、各地の民族舞踊や衣裳、各国のダンスの違いなど、様々なテーマを発表。それに対して聴講者からは活発に質問が飛ぶなど、皆真剣に取り組んでいる姿が印象的でした。
さて本番ですが、野外のためにスモークは使えず、照明もシンプルなものになり、広いステージでどこまで「氣」が伝わるか。最後まで観客の反応が気になりましたが、亜甲自身は最高に気持ちよく、思い切り演じることが出来たようです。
翌日、会議場の周りの社交場になっている所へ行くと、イタリー、スエーデン、モルドバ、ギリシャなど、様々な国の人達が亜甲に握手を求めながら、口々に言ってくれたのは「コングラチュレーション」と「サクセス」という言葉でした。
そして多くの人から「原爆の図」の原作の画集があったら見せてほしいと言われ、隅々まで丹念に見ているのを見て、「伝わったんだな。会場の大小に関係なく、氣が伝わったんだ」と実感しました。
子供達も、長い飛行機の旅、異常な暑さ、環境の変化にもめげず、よく務めを果たしました。各国の人達に歓迎され、彼女達にとって貴重な経験になったと思います。 何よりも嬉しかったのは、今回招待してくれた劇場のプレジデントのアルキス・ラフティス氏が一番感動し、喜んでくれたこと。
そして「いつでもここへ来なさい。そしてこれからもー緒に活動しましょう」と言ってくれたことです。
Scene(セーヌ)1997 第26号