バレエ指導者資格を取得した人達
お互いに支え合うことで磨かれた個性

瀬河寛一

RIDC:1995年修了、

9年がかりで教師資格を取得

私がフランスにてコンテンポラリーダンスのダンス教師免状を取得したのは2004年の5月のことでした。しかし準備を始めたのはずいぶんと前で、95年にさかのぼります。振付家ジジ・カチエレアニュとの出会いがきっかけで93年の11月、私はフランスのブルターニュ地方の中心都市レンヌ市のコンセルヴアトワールでダンスを学ぶ機会に恵まれました。

その時以来末永くお世話になつたリュクサンドラ・ラコヴイッツァ先生の勧めで95年よりパリにあるRIDCという学校にてダンス教師の免状を取得するための準備をすることになりました。フランスでは通常2年から3年制の政府公認のダンス学校にて勉強をして、まず最初にテクニック、解剖学、音楽、芸術およびダンスの歴史の4つの資格を取得して、最後に教育学のテストを受けるための資格が与えられます。この5つの資格をすべて取得したときにはじめてデイプロムというかたちで教師としての資格を授けられます。

RIDCで学んだこの年の終わり、私は最初の4つの資格を取得するべく試験に挑戦しましたが渡仏してから3年目の私の未熟なフランス語力ではまだまだ国家資格の授業や試験を突破するだけの実力はありませんでした。しかしテクニックの資格においては在籍していたコンセルヴァトワールで取得した成積とその年の試験での実力が認められ、資格をいただくことができました。

その翌年の髄年、私は多くの古城があることで有名なロワール地方のアンジェという街にて2年の間CNDCという国立のコンテンポラリー・ダンスセンターにて学ぶことになりました。このCNDCはフランスにおいても特に重要なダンス機関でありとても充実した内容の授業を毎日受講することができました。ただしダンサー育成の目的と同時にダンス教師の免状に値する資格を在籍中に取得しなければならない義務があったためにダンスの授業以外にももちろん解剖学、音楽、芸術およびダンスの歴史を改めて勉強する機会に恵まれました。

CNDCを修了した98年、私は解剖学と芸術およびダンスの歴史の資格を取得して巣立ちました。以来04年まで多くのダンスカンパニーにおいて経験を積んでいきました。結果、それまでの実績が認められ、音楽の資格も免除されはじめて最後のRIDCの内部教育学のフォーメーション(ある一定の期間の授業)を受講する資格を与えられました。

時期的にもフランスでの生活も10年を迎えとても充実した良い時期だったように感じられます。場所は当時パリにあった国立ダンスセンターCND(フォーメーション期間中にパリ郊外の街、パンタンに移設)、ここはコンテンポラリーダンスだけでなくバレエ、ジャズを含むフランス全土においてのダンスを統率している機関です。このCNDにて04年の2月から5月のあいだフランスダンス教師の資格取得のために必要な最後の科目"教育学"のフォーメーションを受講しました。

試練の400時間

さて内容は以下のとおりです。

  1. 生徒の年齢やレベルに応じた責務(知識やテクニック)の習得。

    • 教育法の進行方針の研究。
    • 長期または短期のための授業内容プログラムの練り上げ、クラスの組み立て。
    • 音楽との関係性の習得。
    • 生徒へ声や身体、楽器などを通して音や音楽との関係を深めるように努める。
    • ミュージシャンとのコラボレーションを通してのクラスの組み立て。
    • 音楽とダンスの関係性(冗語法、反響、対立法、独立法、サイレンス)。
    • 身体運動の機能の分析。
    • ダンサーが踊っている時の筋肉、関節、呼吸の認識。
  2. 身体芸術のテクニックの伝達要素の熟考。

  3. 学校または専門の公共施設などの生徒たちのためのクラスの実習。

―― 以上400時間の内容のプログラムになっています。そしてこれらの技術を使っていかに舞踊芸術を伝えてゆくことができる能力と実力があるかを試験にて試されます。

基本的に試験の内容としては試験日に大人のためのクラスと子供のためのクラスの2クラスを教えますが、当日までどのレベルのクラスを教えればよいのかはわかりません。試験の前に各クラスの受講者の年齢とレベルを指定されます。

その後審査員たちとの面接があり終了です。私が受講したセッションではフォーメーションの受講者が私を含めて18人いて、うち14人がデイブロムを取得することができました。

免状はあくまでも出発点

この期間中本当にたくさんの授業を受講しましたが何が一番興味深かったかというと、やはりこれまで私がダンサーとして、また生徒の一人として学んできたことを、今度は伝える側の立場として今までとは違った視線で見つめ直し、たくさんのことを再確認していくことができたことかと思います。最終的には今までの自分の経験を通してオリジナルなクラスを組み立てて伝えていかなければなりません。そのため他のフォーメーションの受講者たちの作ったクラスの生徒にもなつたりして、お互いにシュミレーションクラスとして実践していきます。

その人によってクラスのスタイルも組み立て方もまったく違います。また、彼女たちの指導の方法を見ていて参考になったり学んだりすることができたことも、この教育学のフォーメーションでの大きな収穫だつたのではないでしょうか。

フランスに渡ってから10年の間たくさんの経験を積み重ね、次のステップを歩んでいく上で本当にいろいろな事を見つめ直すとても良い機会となりました。

またこの時期だったからこそ、精神的にも肉体的にも教育学という責任のある課題に取り組むためには絶好の時だったのかもしれません。

しかしこの免状は取得することはできましたが、あくまでも基盤であって実践を通してクラスの内容は成長していくものです。デイブロムを取得して以来、多くのワークショップやクラスを教えてきていますが、本当に経験を重ねるごとにたくさんのことに気付き、学ぶべきことの発見が常にあります。ただ形式上のダンスを教えるのではなく、芸術性、創作性、表現をするうえでの一人ひとりの個性の重要性などを引き出し、伝えていくことのできるひとりの指導者として、これからも自分自身を磨き続けていきたいと思っています。これらの私の経験を通して少しでもこれからダンスの指導者として進んでゆくことを希望している方々の参考になれば幸いです。

そしてこのような素晴らしい環境で学ぶことができたことは、本当にたくさんの方々の支えや協力のお陰です。家族をはじめお世話になった先生方、いろいろなアドバイスや協力をして助けてくれたかけがえのない友人たち。このような方々の温かい応援があったからこそ、本当に集中してフォーメーションに取り組むことができ、また安心して試験にトライすることができたことに改めて感謝したいと思います。

バレリーナへの道 第79号掲載

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