瀬河寛司(バトルワークスダンスカンパニー/アメリカ)
私は1997年、文化庁派遣芸術家在外研修員に選出され、ニューヨークにあるアルピンエイリースクールで学ぶためアメリカに渡り、早くも10年が経ちます。最初の2年間は文化庁からのサポートもあり、大変恵まれた環境で研修に集中することができました。朝9時から夜9時まで踊り、クラスと学校公演などのリハーサルに明け暮れました。もともとアルピン・エイリーの作品に魅了され留学を決めたので、毎日が本当に楽しく常に新しい発見と興奮の連続でありました。
特に私が尊敬してやまないエイリーカンパニー、トップダンサーであるマシュー・ラッシングさんに出会ったのは非常に大きなことでありました。
学校公演にてマシューさんが振り付けたデュエット作品を踊る機会にも恵まれました。身体の使い方、音楽性、ストーリーを伝えることの重要性などのすべてを尊敬する彼から直々に指導をいただいたことは、当時まだ学生であった私にとって充分すぎるほどの刺激であり、毎日が夢のようでした。
その後、エイリーカンパニーのセカンドカンパニーであるエイリーⅡに入団し、全米各地約80都市をツアー公演して回りました。
アメリカという国の壮大さに感動し、また踊りを通した人々との心の触れ合いを経験。.01年ニューヨークテロ事件直後のツアー公演では『レベレーションズ』を踊るたびに人々からふだん以上の熱狂的な反応とアンコールの連続で迎えられ、舞台上で震えがくるほど感動したのを覚えています。
現在は振付家ロバート・バトルさん率いるバトルワークスダンスカンパニーに所属しています。
エイリーⅡ在団中に、ロバートの作品を踊った際に彼と出会いました。彼の踊りは動きがとても速くエネルギッシュで、そして魂の込もった熱い踊りです。
カンパニーは9人と少人数ですが、皆とても個性的でキャラクターの強いダンサーたちばかりです。
自分自身を最大に表現できる環境であり、感性の合った振付家そしてダンサーたちと一緒に仕事ができることに喜びを感じています。ただ現在のニューヨークダンス界における経済的問題は深刻で、私たちの様に新しいカンパニーが年間を通して活動をすることは難しく、もっと公演回数が増えればと願うばかりです。
近年はアメリカを代表する振付家マーク・モリスさんとの仕事も定期的にしています。
ロンドンのサドラーズウェルズ劇場で3週間に渡り行われた『ハードナット』公演で初めて彼の作品を踊りました。その後も名作『ルアレグロ/イルペンセロソ/モデラート』 のツアー公演、イングリッシュナショナルオペラとの『キングアーサー』、最近ではマークが初めてメトロポリタンオペラにて演出振付をして話題になった『オルフェイス』などにも参加。
マークの振付における独特で素晴らしい音楽性、ダンサーには完璧しか求めないこだわりと要求の高さ、熟練されたベテランダンサーたちで構成されたカンパニーなどさまざまな面で大変貴重な経験となっています。
私はダンサーとしての活動と平行に、早い時期から指導も始めました。04年からはステップスブロードウエーにてモダンクラスの代行教師を務めています。
今年の夏はABT/カレッジサマープログラムで3週間教え、ペリダンススクール、ジョフリーバレエスクールでも指導をしました。秋には今年4年目となるテキサス州の芸術学校でのレジデンシーに行くほか、ペンシルベニア州にあるバレエスクールで30分の『ピーターパン』バレエの振付をします。
この10年間はあっという間でしたが、厳しさの中にも自由があるここアメリカだからこそ、ダンサーとしてまた指導者として自分の可能性をまっとうし、自由な活動を続けてくることができました。
でもそのすべての原点は日本にあるということを常に忘れてはいません。踊りという才能与えてくれた舞踊家の母である亜甲絵里香、長年愛情を込めてバレエを指導して下さった私の恩師堀内完先生そして堀内充先生に対する感謝の気持ちはいつまで経っても変わりません。今の自分があるのはこの皆様のお陰でありその教えを常に胸にしまって、これからも新たな飛躍を目指し精進していきたいと思っております。
昨年アメリカダンスの魅力を日本の皆様にお届けする「ダンスプロジェクトニューヨーク」を設立し、ニューヨーク公演を行いました。最近ソリストに昇進したアメリカンバレエシアターの加治屋百合子ちゃん、グランディーバの瀬川哲司君、またエイリーカンパニ-のクリフトン・ブラウン君など各分野で活躍する素晴らしいダンサーたちが多く参加してくれています。
近い将来の日本公演実現に向けて頑張りたいと思います。
最後に余談となりますが、この7月に結婚をしました。相手は7年間交際していたジェシカ・ラングさんで、アメリカダンス界で活躍する振付家です。
最近では日本でもNBAゴールデン・バレエ・コー・スター公演で久保紘一さんとABTソリストのマリア・リチエツトさんがジェシカの作品を踊られました。来年2月にはマラーホフの日本公演にて、ABTのプリンシパルであるイリーナ・デヴオロヴェンコさんとマックス・ベロスコフスキーさんがジェシカのデュエットを2作品披露する予定となっていますので、皆さん是非観に行って下さい!
■07年7月7日挙式 妻ジェシカとともにセントラルパークにて
バレリーナへの道 第71号掲載