バレエ=愛、平和、希望
感動を与えられる舞踊を理想に
~絵里香バレエスタジオ~

取材小林知子

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小田急線・本厚木駅から徒歩12分。スタジオの階段脇にあるショーウィンドウにはチュチュの衣装が置いてあり、可愛い雰囲気を醸し出している。2階の扉を開けると、そこには明るいスタジオ。元気な笑顔の生徒が出迎えてくれた。

基本はきっちり、踊りはのびのび自由に

「おはようございます。よろしくお願いします」と大きな声で礼儀正しく、15人の生徒が挨拶をする。スタジオは窓が多く、開放された空問が広がっている。

この日クラスには小学3年生から高校生までがレッスンを受けた。指導はスタジオ主宰、亜甲絵里香さんの愛娘である瀬河華織さん。

まずはウオーミング・アップ。手を振ったり、首を回したり、軽くジャンプしたり、柔軟体操などを行う。あぐらをかき、股関節を広げる運動の時は、一人ずつ順番に声を出し、10まで数を数えるなど、生徒が積極的に参加する。

スタジオに響くのは、明るくハリのある華織さんの声。先生の指導に応えようと生徒のやる気をおこさせるような感じだ。

バー・レッスンでは、音楽に合わせ華織さんが説明しながら見本を見せる。「いいですか?」の問いかけに、全員が「はい!」と毎回答える。明るい雰囲気ながらも、そこにはほどよい緊張感があって、集中力が要される。

バランスをとる時は「鳥が飛んでいるような感じで~。浮かんでいるような感じのまま下りてくる~」。指導している言葉と見せている手本が一致しているので、非常にわかりやすい。 骨盤、股関節がまっすぐのまま動かすように、ていねいな指導が一人ひとりに行われる。また、同じ内容でも小学生には、腕のポジションはそのままで回転はなし、という配慮がされていた。

みっちりバー・レッスンのあとセンターへと移る。5グループほどに分かれ、小さい順からそれぞれ与えられた課題のアンシェヌマンを行う。もちろん難易度は、グループによって違うが、そこには一貫された指導がある。「できてもできなくても、最初と最後はきっちりとやってね。だけどのびのびと大きくね!」センターになると、生徒は水を得た魚のように自由に楽しく踊っている姿が印象的だった。

最後は『瀕死の白鳥』の曲をかける。鳥をイメージしながらグループごとに、好きなところに好きなように動いていき、音楽が止まったところで好きなポーズをする。こういったところで個性が発揮されていくのだろう。思い思いに踊った後は、クラス全員が手を取り合い輪になって走る。そして手はつないだまま、心を一つにして「ありがとうございました」とご挨拶。

これは絵里香流レッスン。その流れは着実に華織さんにも受け継がれている。

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個性、感性、創造性を育てながら
生徒と一対一での付き合い

華織さんの教えはワガノワを基本に教えている。「余先生に教えていただいたということと、ロシア国立ノボシビルスクで公演や交流をしている影響が あるからです。ただ、形ばかりにとらわれすぎないように気をつけています」。

生徒と接していると、そこには小さな感動の連続があるという。「私は指導しながら、自分も学んでいると感じています。生徒一人ひとりに眠っている心を目覚めさせ、感性を育てていけば、何でもできる、何にでも通用すると思います。

発表会などは、心と心が結びつくいい機会です。振付などで時間を長く過ごしていくこともあると思いますが。人間関係の殻も破れて、踊りの殻も破れていくんです。そういった過程を目の当たりにするのは、嬉しいです。もちろん子供なので行き過ぎにならないように、細心の注意を払っていますが(笑)。

踊りを楽しんでほしいんです。テクニックができた、ただそれだけではなく表現する楽しさ、喜びを身体で感じてほしいんです」

絵里香さんも口をそろえる。

「回転やジャンプだけでは、舞踊とは呼べないと思います。音楽を聴き感じ、心と身体が一体化されて踊るとエネルギーを発するんです。だからこそ、多少型をはずしても、気にしないでのびやかに楽しい気持ちで踊ってほしいと思います。

また、バレエは人間形成にも通じています。集団の中でわがままはタブーですし、ルールは守らなくてはいげません。私たちは、自然体で心から挨拶できるようになる、感謝の気持ちをもって『ありがとう』と言えるようになる、そういった環境を作って整えていくように心がけています。親が子を育てるように、同じような気持ちで生徒も育てています。バレエで経験したよいものは、もしバレリーナになれなかったとしても、次のステップの糧になるんです。

厚木にスタジオを開設して31年間、欠かさないでしていることば、自主的に生徒たちが稽古前と後に掃除をするということと、笑顔で挨拶。この二つですね」

生徒に対し誠意と愛情を持って接しているというのがよくわかる。生徒はそれぞれ、バレエノートというものを持っている。相談ごとを書いたり、思っていることを書き綴ったり、日記のようなものもある。提出が義務づけられているわけではない。自由に何でも書いていいのだ。絵里香さんは、こう語る。

「踊りを通して人生をともに生き、お互い学んでいるという感じでしょうか? 生徒とは常に一対一で向き合い、付き合っています」

こうしたスタンスを貴いている絵里香さんの中には、恩師高田せい子さんの愛が生き続けているという。

「高田先生が私に敢えてくださったのは『真・善・美・愛』なんです。人間として肉体はもう会えないけれど、生きるエネルギーです。今でも一緒に生きています」

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世界に発信する愛と平和と希望の大切さ

現在、絵里香さんは舞踊を通して人に何か伝えていこうと試みている。その一つは、「親子バレエ」。

「最近、親子のふれあいが少ないような気がしています。愛情をどう注いだらいいのかわからないといった親もいるようです」

厚木市や新聞社の協力も得られ、スポーツセンターの体育館で親子バレエ無科講習会が開催された。43組、90人近くが受講。バレエを通しで親子のコミュニケーションは、反応が非常によく、厚木市外からも、遠く東北に住む以前の教え子も参加した。

この講習会が大好評だったことを受け、現在、親子バレエは土曜の午後行われている。そのほか、ミセス対象の健康体操があり、今後男性専用のストレッチクラスも開溝される予定。長男の瀬河寛一さんが担当するモダンミュージカル、モダンダンスのクラスもあり、バレエ教師にも人気がある。ニューヨークのバトルワークスダンスカンパニーに所属している次男の寛司さんが帰国した時は、特別にクラスが設けられる。またフランス語や英語のクラスもあって、国際的な空気が流れている。

今年、ダンスカンパニー『エリカアコオ・グローバル・ダンス・シアター』を結成し、現在、研修生を募集している。テクニッククラスは日曜17時15分~、創作クラスは月曜19時15分~、代々木のスタジオKにてレッスンの予定。講師は絵里香さん、瀬河寛一・華織さんが担当する。

「この仕事は、私が神様から与えられた仕事なんだと思っています。息子の寛一のコンテンポラリーの世界、そして私が作り上げるドラマティックな舞踊を世界に発信していきたいです」

バレリーナへの道 第64号掲載

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