亜甲絵里香・瀬河華織親子が、
ノボシビルスクで『オルフェウス』を上演

桜井多佳子

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ロシア・ノボシビルスクで3月9日、「国際婦人デー記念コンサート」が行われ、亜甲絵里香振付「オルフェウス」が上演された。オルフェウスの妻を演じたのは亜甲の長女、瀬河華織。日本人が描くギリシア神話をロシアの観客は興味深く見守っていた。

3度目のノボシビルスク

一昨年の5月、ノボシビルスクで開催された「第1回国際振付家コンテスト」に亜甲絵里香.瀬河華織が参加、「観客に最も愛された賞」を受賞。それがきつかけとなり、昨年も彼女たちはノボシビルスクに赴き、現地の「シベリア・北海道文化センタ⊥で踊る機会を得た。その縁は絶えることなく、今回の「国際婦人デー記念コンサート」出演につながる。

3月8日の国際婦人デーは、ロシア女性が毎年待ち望む日だ。この日、女性たちは家事から開放され、男性からお祝いの言葉と花束を贈られる。翌日のこのコンサートのタイトルは「美女、女神、天使!」。女性を崇拝している言葉のようだ。

会場のコンサートホールは定員550人。ノホシビルスクは・モスクワやサンクトペテルブルグなどと同様に、オペラ、バレエ、コンサート、芝居など劇場芸術が愛されているようで、劇場チケットはほとんど1か月前に完売するという。この日のコンサートも例外ではなく、ホールには夫婦連れやカップル、年配の婦人同士ら、さまざまな観客が多く詰めかけていた。

プログラムの第1部は、ロシア国立ノボシビルスク歌劇場ソリストたちの歌曲集。「ホフマン物語」「カルメン」など有名なオペラのアリアのほか、テレビ番組からのロマンスや、ロシア民謡なども披露され場内は和やかな雰囲気だった。

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幸福なラスト

第2部のトップが、いよいよ「オルフェウス」。~竪琴の名手オルフェウスは黄泉の国へ行き、亡くなった愛妻エウリディケを連れ戻そうとする。黄泉の国の王は、地上に戻るまで振り向かなければ妻を返すという。だがオルフェウスは、もう少しのところで振り向いてしまい、永遠に妻を失うーーーという有名なギリシャ神話をもとに、亜甲が独白の感性で舞台化していた。

オルフェウス役はロシア国立ノボシビルスク・バレエ団プリンシパルのエフゲニー・グラシェンコ。がっちりとした体格で動きがダイナミック。ギリシャ神話にふさわしいダンサーだ。ロシア功労芸術家の称号も持つトップダンサーを相手に、彼の妻を瀬河華織はひたむきに演じてはいたが、やはりキャリアの違いは明らか。だが、この貴重な経験は、瀬河のこれからの「キャリア」に大いに生かされるのではないだろうか。

出演者は2人のほか、同バレエ団の男性ダンサー5人。彼らは黄泉の国の場に登場する「地獄の悪霊」。苦しみにのたうちまわり、それぞれが恨みを抱えているようにも見えた。同時に動きに変化のあるダンスシーンとしても見応えがあった。亜甲らは2月16日にノボシビルスクに入り、振付作業とリハーサルを重ねてきた。ただ、ダンサーたちはバレエ団活動が忙しく、充分な時間はとれなかったという。クラシックのパをつなげたのではなく、モダンの動きをとり入れドラマティックな要素を含んだこの作品は、ロシア人ダンサーにとっても挑戦のしがいがあったよう。出演したダンサーたちは口々に「この作品を踊るのは、すごく良い経験だった」と語っていた。

ギリシャ神話は悲劇に終わるが、亜甲の作品では、夫婦は再び結ばれる。2人が強く抱きあう世界には、火炎がゆらめいていて、黄泉の国とも違う幻想世界が想像できた。亜甲の話では、炎には「情熱」の意味もあったようだ。どちらにしても希望を抱かせるラストは後味が良い。満員の観客は大きな拍手を惜しみなく贈っていた。

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ロシアの人たちの笑顔 ― ワークショップ

公演4日後(3月13日)、「シベリア・北海道文化センター」で亜甲のワークショップが行われた。同文化センターは文字どおり、北海道との交流の拠点になっている設備の整った建物。畳の間や小さい室内プールやレッスン場もあり、ここでは剣道や社交ダンスなどの教室も開かれている。この日の亜甲の講習を受けたのは、社交ダンスを習う人たち。学生から年配の方まで幅広い年齢層の男女だ。

最初は、とまどいながらワークショップに参加していたようだが、亜甲の優しい物言いと熱心さが、ほどなく人々の緊張を解きほぐしていく。腕を伸ばしたり、振り上げたり。極端に激しくはないが、身体のすみずみの筋肉を目覚めさせるような運動。ときに1~10までの数を一緒に数えたりしながら、講師も受講者も「心をひとつにして」身体を動かす。1時問半のレッスン後、受講者たちは「面白かった。気持ちがすっきりしました」など笑顔で感想を語っていた。

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バレリーナへの道 第48号掲載

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