瀬河寛司
皆さんお元気ですか。
僕が現在米国ニューヨークにて所属しているAiley IIでの活動内容、その経験を通して感じたことなどをご紹介したいと思います。
アルビンエイリーアメリカンダンスシアターのセカンドカンパニーであるエイリーII は1974年にMr. Alvin Aileyによって設立され、以来27年間ディレクターであるMs. Silvia Watersの指揮下で現在僕たち18~24歳までの若いダンサー12人で構成されています。
全米国内をまわるツアーカンパニーで昨年は1年間で全米43都市26州を旅して公演しました。活動内容は主に3つに分かれます。ひとつは一般のお客さんを対象とした本公演、二つ目はその地域の地元の小中学校、高校から子供たちを劇場に招き行うミニパフォーマンス、三つ目にマスタークラスがあり大学のダンス科などで僕たちが交替でクラスを教えます。その他にHospital Audienceといって病院から人々を招いて公演したりもします。
エイリーII はレパートリーカンパニーで今年は14作品を持ってツアーに出ています。Mr.AlLEYの名作「レベレーションズ」「イズバ」「ストリームス」などに加えて毎年新しい振付家の新作もあります。
今年は元フランクフルトバレエのプリンシバルだったフランチェスカハーパー、ラールボビッチカンパニーからスコットリンク、デビットパーソンズカンパニーからロバートバトルなど多種多様な振付家が新作を提供してとてもバラエティーに溢れています。
夏に2ヶ月のリハーサル期間を終えた後、9月8日のワシントンDCのケネディセンターでの公演を皮切りにマサチューセッツ州、オハイオ州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、ジョージア州、ミシガン州、ミズーリ州等を回り無事第1期ツアーを終えてニューヨークに帰って来ました。
今回のツアーを振り返って重大だったことはやはリ9月11日のワールドトレードセンターでのテロ事件があり、全米が騒然として大変であった時期の中で続行したツアーだったということです。当初はお客さんが来てくれるかと心配でしたが幸運なことにどこに行っても満員のお客さんに迎えられました。劇場には舞台そでや客席にアメリカの国旗が大きく掲げられていて舞台に立っている時にパッと目についてとても複雑な気持ちになったのを覚えています。
こんな時だからこそ魂を込めて踊ろうとカンパニー全員で話し合って毎晩の公演を迎えました。いつもどおり「レベレーションズ」を最後に踊ったあとアンコールヘと続くのですが、この頃は毎晩何かいつも以上にお客さんの反応が大きくパワーのある拍手とスタンディングオベーションを受けました。「あ一伝わったんだなぁ」と力一テンコールをしながらなんとも言えない感動が込み上げてきました。芸術家としての本当の意昧での仕事が出来たことがすごく嬉しかったし、またダンサーであることをすごく誇りに思うことができました。
カンパニーメンバーin Alvin Ailey's 「Blue Suite」
右端が瀬河寛司君
Photo by Roy Volkman (2001年)
12月にはニューヨークのシティーセンター主催のCITY CENTERTEACH FOR YOUNGPEOPLEというプロジェクトを行いました。これは一般の子供達を対象とした芸術教育プログラムをダンスで行うというものです。僕たちエイリーII のメンバーが2,3人に別れてクイーンズ、ブルックリン、マンハッタン、ブ□ンクスとニューヨーク中にある小、中、高等学校を訪れダンスに全く触れたことのない子供達にダンスのクラスを教えるというものです。それを2週問毎日違う学校で行います。そのプログラムの最後として最終日にその子供達をシティーセンターに招待して僕たちが彼らのために特別公演を行いました。
アメリカではこのような子供達のためのダンスによる芸術教育プログラムがひんばんに行われています。このシティーセンター主催のものでは1年を通して僕たちエイリーカンパニーの他にポールテイラーダンスカンパニーやアメリカンバレエシアター等によっても行われています。ダンスを通しての子供達とのふれあいはとてもすばらしいものです。最初は恥ずかしがりながらもみんな「ウー」とか「アー」とか「ワオー」等言いながら身体を動かして楽しんでくれます。
皆さんご存知のとおりニューヨークには色々な人種の人々が住んでいます。そのためクラスによっては全員ヒスパニックの子供達で英語を話さないため終始僕が英語で何か言うとそれをクラスの先生がスペイン語に訳して、ある時はクラス全員が中国人の子供達で同じように先生が中国語に訳してクラスを教えたこともありました。でも実際は言葉はあまり問題ではなくどの子供達も身体の動きを通してのコミュニケーションを楽しむ事が出来て僕自身本当にすばらしい時間を過ごせました。
最初に述べた通り僕たちエイリーII は子供達を対象としたパフォーマンスを全米各地にて行いますが、昨年ロサンゼルスで行ったものは一番大きな規模のものでした。3,000人収容の劇場で1 階から3階までがいっばいの子供達で埋まり1日に2回公演をして、たった3日問で計約18,OOO人のロサンゼルスの子供達が僕たちのパフォーマンスを観ました。そのことは地元の新聞L.Aタイムズ誌にも大きく取り上げられました。
アメリカに来て自分がダンサーでいて本当に良かったなぁと思うことが何度もありました。それは人々とダンスを通してコミュニケーション出来た時です。先に述べたように9月11日の事件後の公演での経験やこのような子供達との交流がそうです。そしてその度に考えるのが、自分が芸術家としてダンサーとしてまた1人の人間として一般社会のなかで何が出来るかということです。ダンスの世界で自分の名誉や地位を築くのもいいかもしれませんが、それよりも一般社会のなかでの芸術家としての役目とは何か、自分に出来ることは何だろうと最近すごく考えます。
Mr.Aileyが生前つねに語っていた言葉があります。「I believe dance came from people and it should always be given back to people.」
つまり「ダンスはすべての人々からくるものであって、それはすべての人々に返さなければならない」「舞台の上のダンサーは人間でなくてはならない」「普通の人々の人生や生活を反映するものでなくてはならない」と彼は信じるということです。僕自身アメリカでの様々な経験からまさに同じ事を感じるし、これからの自分の芸術活動も常にそこに重点を置いて行っていきたいと強く思います。
来年(2002年)1月からは第2期ツアーが始まります。2ケ月の長いツアーでカリフォルニア州、ネバダ州、オレゴン州、アイダホ州、ワシントン州を回りそして2週問のアラスカ州6都市ツアーもあります。今からとても楽しみです。
また機会があれば近況報告させて頂きたいと思います。それでは皆さんお元気で。
カンパニーメンバー、アシスタント・ディレクター(Sylvia Waters)、
リハーサル・ディレクター(Derrick Minter and Resident)、
コレオグラファー(Troy O'Neil Powell)と共に。
中段左端が瀬河寛司君
Photo by Roy Volkman (2001年)
セーヌ 2002年 春 第45号掲載